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紅茶とお菓子について書いているほっこりブログです

Facebookで人気の「有名なバイオリン弾き」は限りなくデマ(追記あり)

Facebookはイイ話デマが多い。ぼんやりしていると、すぐに引っかかってしまう。
今回も事実の一部を書き換えたエピソードが真実の話として出回っているので見てみたい。問題のエピソードはこれだ。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10200422383787211&set=a.2168156208503.2153830.1384647064&type=1
現在2万8000以上シェア、3,545人のいいね!されている。
では、一体どんなエピソードが引用してみよう。

ある寒い1月の朝、一人の男がワシントンD.C.の駅で座りながらバイオリンを弾き始めました。彼はバッハの曲を1時間程演奏しました。その時間帯は通勤ラッシュだったため、約1100人がその男の前を通りました。

3分後、ある中年の男はバイオリンを弾いている人がいると気づき、足を止めました。しかし、結局止まったのはほんの僅かな時間で、数秒後にはその場を離れました。

1分後、バイオリニストはやっとお金を稼ぐことができました。ある女性がケースに1ドル札を投げ入れましたが、彼女は止まることなく歩き続けました。

少しした後、壁に寄りかかって彼の音楽を聴く者が現れましたが、腕時計を見るとすぐに歩き始めました。会社に遅刻しそうだったのです。

一番彼の音楽が気になったのは、3歳の男の子でした。彼のお母さんは急いでいて、男の子の腕を強く引っ張りました。それでも男の子はバイオリニストを聞こうと足を止めます。お母さんは男の子の背中を強く押し、無理やり歩かせました。それでも男の子はずっと後ろのバイオリニストを見ながら去って行きました。他の子供も同様でしたが、親は全員例外なく止まることなくその場を去りました。

彼が演奏した一時間内で、足を止めて彼のバイオリンを聞いたのはたった6人でした。お金を入れてくれたのは20人程でしたが、止まった人は誰もいませんでした。稼いだお金はたったの32ドル。彼が演奏をやめ、駅が沈黙に包まれた時、気付いた人は誰一人いません。拍手はなく、このバイオリニストを認める人はいなかったのです。

バイオリニストの名前はジョシュア・ベル。彼は世界で最も才能のあるミュージシャンの一人です。彼はたった今、歴史に残る傑作を演奏したのです。それも3億円のバイオリンを使って。

彼の駅での演奏の二日前、彼のボストンでのコンサートのチケットは、一枚一万円するものの全て売り切れました。

これは実際にあった話です。ジョシュア・ベルが素性を明かさず行ったこの演奏は、人々の視覚・嗜好・優先順位を研究するための実験としてワシントン・ポスト紙によって行われました。私たちは本当に「美しさ」を理解しているのだろうか?それをちゃんと足を止めて味わっているのだろうか?予想していない状況でも、才能を感じ取ることはできるのだろうか?

一つ結論として言えるのは、

もし私達は世界で最も才能のあるミュージシャンが、歴史上一番の傑作を演奏してさえ気付かないのであれば、私達は他にもきっと多くの「美しいもの」を見過ごしているのではないか?



もしあなたも足を止めてこの記事を読んでいただけたのなら、是非シェアしてください。

さて、このエピソードは同じFacebookで、2013年1月8日に https://www.facebook.com/photo.php?fbid=543314299025758&set=a.193265270697331.47989.126659057357953&type=1&theater という英語のエントリーがあり、これを日本語訳したものだ。ちなみに英語版ではいいねが7万件、シェアが8万件されている。

■事実と違うエピソード
このFacebookエントリーの最大のツッコミどころは、事実と違う点だ。
ワシントンポストの元記事はこれだが、私は英語が苦手なので、この記事を翻訳してくれた以下エントリーから引用する(しかし以下の記事も全文翻訳されているわけではない)。
・朝食の前の真珠(ままくんカフェ)
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110000/
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110001/
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110002/
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110003/

Facebookでは

一番彼の音楽が気になったのは、3歳の男の子でした。

気付いた人は誰一人いません。拍手はなく、このバイオリニストを認める人はいなかったのです。

と書かれているが、これはウソ。
ワシントンポストの記事では、彼の演奏を気に入った人間は4人おり、そのうち1人はジョシュア・ベルと気が付いている。
ジョシュア・ベル本人とは気がつかなかったが、そのバイオリンの美しさに気がついた人は以下の3人。<追記>
名前あるの? さんの指摘より、3人ではなく7人が正しいようです。ワシントンポストの原文ではこの部分「Things never got much better. In the three-quarters of an hour that Joshua Bell played, seven people stopped what they were doing to hang around and take in the performance, at least for a minute. 」

ベル氏の音楽が全くクラシックを知らない人の心を捉えた瞬間もあったのです。
ジョン=デイヴィッド・モーテンセン氏は政府エネルギー部門の課長。予算を立てるのに大忙しです。
丁度、シャコンヌが重厚な短調から長調のまるで信仰的な救いを表すメロディーに変った時です。
モーテンセン氏は立ち止まり、3分ほど音楽を聴きます。
そして、生まれて初めてストリートミュージシャンにお金を恵みました。
もちろんモーテンセン氏は短調、長調など何のことやら判りません。

「なんか知らないが、音楽で平安な気持ちになったんですよ。
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110001/ より

次に

その日の「カルチャー・ヒーロー」が遂に現れたのは、演奏の最後の方です。
全く目立たないこのヒーローは、ジョン・ピカレッロさん。小柄でちょっと髪が薄くなっています。
ピカレッロさんがエスカレーターの上まで来た時に丁度ベル氏が再びシャコンヌを弾き始めたばかりでした。
始め音楽がどこから来るのかキョロキョロ探し、靴磨き屋をちょっと過ぎた宝くじ売り場の丁度向かいに場所を陣取って、ピカレッロさんは9分じっとその場で音楽を聴きます。
(略)
「この人は優秀なヴァイオリニストだね。このクラスの演奏は聴いたことが無い。
彼は技術的に素晴らしく、フレーズも良かった。良い楽器も持っていた、大きな音でまろやかな音だったな。遠巻きに歩きながら聴こうと思ったよ。邪魔したくなかったのでね。」
「本当ですか?」
「そうですよ。稀な経験ですね。得したな、と感じました。あんな風に一日を始めるなんて素晴らしい、信じられませんよ。」
ピカレッロさんはクラシック音楽を知っています。
実際ベル氏のファンですが、ベル氏の最近の写真を見ていないそうで、本人だと判らなかったそうです。それに遠くでで聞いていたので顔をよく見ることもできなかったのです。
でも、これはただならぬ演奏家だと感じたのです。
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110003/ より

3人目。

オルさんは住宅・都市関係部の会計課で勤務、子供の頃ヴァイオリンを弾いていました。
ベル氏の弾いていた曲の題名は知らないものの、ベル氏が才能ある演奏家だとは判りました。
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110003/ より

そして、ジョシュア・ベルだとわかった人は……

予想していた通り、たった一人の女性がベル氏だと気づきました。彼女がやってきたのは演奏の終焉近く。

ステイシー・フルカワさんは政府商業局の統計課で働いています。
音楽のことは良く判らないものの、3週間前に国会図書館で開催されたベル氏の無料コンサートに足を運びました。

この国際的なヴァイオリニストが路上で一生懸命弾いて物乞いをしている、こんな光景を見てびっくり仰天でした。

フルカワさんは10フィート(約3m)離れて立ち、満面に笑顔を浮かべてじっとベル氏を見入っていました。

「こんな事ってワシントンで見たこと無いわ。あのジョシュア・ベルがラッシュアワー時にそこに立って一生懸命弾いているのに誰も立ち止まって見る人もいない。中には25セント硬貨を投げ入れる人がいるなんて!
私だったらそんな事できないわよ。一体なんてとんでもない世の中に住んでいるんでしょう?!」
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110003/ より

この実験の動画はYouTubeにアップされているが、これを見ればFacebookの記述が嘘だとわかる。

■テストの目的も違う?
Facebookでは、このテストについて

ジョシュア・ベルが素性を明かさず行ったこの演奏は、人々の視覚・嗜好・優先順位を研究するための実験としてワシントン・ポスト紙によって行われました。私たちは本当に「美しさ」を理解しているのだろうか?それをちゃんと足を止めて味わっているのだろうか?予想していない状況でも、才能を感じ取ることはできるのだろうか?

と語っているが、ワシントンポストでは以下のように説明している。

ストリートミュージシャンはワシントンでは良く見かけられる光景です。
喧騒の中で通行人は様々な選択肢に直面する事になります。

立ち止まって音楽を聴くでしょうか?
後ろ髪を引かれながらも仕事に遅れたくない、お金を無駄に使いたくないと思ってただ通り過ぎるでしょうか?
気の毒なので1ドル札を恵むでしょうか?
もし演奏がとても上手かったらどうするでしょうか?

美しいものを楽しむ時間はあるでしょうか?楽しむべきではないでしょうか?
心理的にどんな計算が繰り広げられるのでしょうか?
http://plaza.rakuten.co.jp/mamakuncafe/diary/200704110000/ より

全くの間違いではないが、Facebookで書かれている「人々の視覚・嗜好・優先順位を研究」とは、ニュアンスが違うように感じる。

■ワシントンポストと結論も違う
Facebookでは、

一つ結論として言えるのは、

もし私達は世界で最も才能のあるミュージシャンが、歴史上一番の傑作を演奏してさえ気付かないのであれば、私達は他にもきっと多くの「美しいもの」を見過ごしているのではないか?

と、学校作文コンテストで先生が喜びそうな内容になっている。しかしワシントンポストでは「芸術には鑑賞するのに相応しい環境が必要だ。ストリートミュージシャンでは難しいのでは?」と述べている。
またFacebookのコメントは、ジョシュア・ベルだとわからなかったが、彼の演奏に心を打たれた37人に対して、非常に失礼な表現と言えるだろう。
さらに、この結論は「気付いた人は誰一人いません。拍手はなく、このバイオリニストを認める人はいなかったのです」という事実を元に、導き出した結論だが、実際にはそんなことはないので、この結論も生きてこない。

Facebookでは、最後に

もしあなたも足を止めてこの記事を読んでいただけたのなら、是非シェアしてください。

と書かれている。個人的には「イイ話系」に「シェア希望」とくると、「かなりの確率でデマなのでは?」と疑ってしまう。<追記>
今回指摘してくれた、名前あるの?さんのエントリーも面白いので、あわせて読んでください。
・自分のバイアスでデマを批判してデマを生み出す人と見えないゴリラの話。
http://d.hatena.ne.jp/namaer/20130116/1358316079
ご指摘ありがとうございます! 『錯覚の科学』も読んでみますね

※今回のエントリーは、ワシントンポスト、Facebookの元ネタの英文を自分で訳していないので、もしかしたら間違っている部分があるかもしれません。わかりしだい修正します。指摘してもらえたら助かります。
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