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紅茶とお菓子について書いているほっこりブログです

雨に濡れて震える老婆

これは、後味が悪い。
・何を書いても構いませんので@生活板  7

866 :名無しさん@おーぷん:2015/07/17(金)13:16:28 ID:Feq
台風の来るたびに思い出す人がいる。
実家の近くに良く居たお婆さん。
いつも小さな巾着袋を持って、外をうろうろしている。
巾着袋を持っていて、小銭とポケットティッシュが入っている。
晴れでも雨でも、暑くても寒くても、昼間は一年中外にいるから日焼けで真っ黒。
喋っているのは聞いたことがない。
台風の迫っていたある日、学校から帰る途中でお婆さんを見かけた。
廃屋の軒先を借りて雨宿りをしているようだったけど、もう随分と雨風は強くなっていて、雨宿りの意味があまりないような有様。
お婆さんはびしょ濡れで震えていた。
家に帰って、祖母にお婆さんのことを知らせた。
祖母は少し考えた後、町内会長さんのお宅に連絡を入れ、出かけて行った。
小一時間ほどで帰宅した祖母は、「あなたももう中学生だから、世の中にはこういうことがあるって
知っておいてもいいでしょう」
と、そのお婆さんに纏わることを話し出した。
昔々、隣町の地主の家に娘が生まれた。
この娘は「頭のゆっくりした子」(祖母談。知的に障害がある、という意味だと思う)で
地主夫婦は娘のことをとても心配していた。
自分たちが世話をできるうちはいい。しかし、親は子より先に死ぬ。
自分たちの死後、娘はどうなる?
地主夫婦は、娘に婿を取ることにした。
家、土地、資産は娘に全部付けてやる。だから娘を一生面倒見てくれ。
そういう条件で婿養子を探し、娘を結婚させた。
娘夫婦は地主夫婦と同居で生活し、穏やかに暮らしているようだった。
そのまま数十年が経った。
地主夫婦は随分長生きして娘の面倒を見たが、それにも終わりの時が来る。
まず妻が、続いて夫が倒れた。
夫婦ともに、最後まで「娘を頼む」と婿に頼んでいたそうだ。
婿が葬儀やそれに伴う雑事を取り仕切り、そして、娘夫婦が資産とともに残された。

867 :名無しさん@おーぷん:2015/07/17(金)13:16:48 ID:Feq
四十九日が過ぎたころ、周辺の人々は奇妙なことに気付いた。
地主の娘が、一日中外にいる。
用事があるようでもなく、ただ一日ふらふらしている。
地主夫婦の生前は、家の中で大人しく過ごすことが多かったのに。
最初は、相次いだ親の死で何か心境に変化でもあったのかと思われていた。
しかし真相は違った。
真相が知られるきっかけは、地主の娘が道端で倒れて病院に担ぎ込まれたことだった。
病院の看護婦が、いったいどういうわけで倒れるまで外にいたのかと聞くと、地主の娘はこう答えた。
「婿さんが、日が暮れるまで家に帰ってくるなって言った」
地主の娘の話はなかなか要領を得なかった。
婿さんに嫌いだって言われた。
家にずっとお前がいるともっと嫌いになる。だから、日が暮れるまでは帰ってくるなと言われた。
夜になったら帰ってきて、風呂に入って部屋で寝ていい。
色々なところから話を聞き合わせ、また婿の話を聞いてみるとこうだった。
婿さんは、ずっと内心で地主の娘のことを疎んできた。
婿に入ったのは資産目当て。
地主夫婦が死んで、資産の名義こそ地主の娘のものだが、実際の管理は婿がしている。
最低限、食事と風呂と寝床を世話して小遣いをやるけど、それ以上のことはする気がない。
もちろん色んな人が婿さんに意見をしたが、婿さんが改めることはなかった。
周囲の者が間に入って、婿さんに幾何かの財産を渡して夫婦別れさせようとしたが、これには地主の娘が肯かなかった。
酷い目にあっているのになぜかと聞くと、「父さんと母さんが、婿さんの言うことを聞いて、仲良くしろって言ったから」
と答えたそうだ。
本人がそう言う以上、もう周りには手の出しようがなかった。
そして、地主の娘は、二十年ほどもこの生活を続けている。
お分かりだと思うけど、この地主の娘がすなわちあのお婆さん。
祖母は以上のことを滔々と話して、最後に
「地主夫婦は、娘可愛さでいろいろ考えたんだろうけど、やり方を間違ったよね。
夫婦って言ったって他人なんだから」
と言って話を締めた。
台風の前になると、この話と、濡れて震えていた小さなお婆さんを思い出してどんよりした気分になる。

869 :名無しさん@おーぷん:2015/07/17(金)13:31:57 ID:qJH
>>867
婿はどうしてるの?

872 :名無しさん@おーぷん:2015/07/17(金)13:59:09 ID:Feq
婿は、「黙って座ってても暮らしていける」(祖母談。不労所得?)から
ずっと自宅に引きこもって暮らしていると聞いた。
雇われのお手伝いさんがいて、生活関係のことは全部そのお手伝いさんがしていたらしい。
財産を食いつぶすわけでなし、なんか変な人らしい。