解雇通知を正式に渡された。俺は1ヵ月後に会社を辞めねばならない。山■パン高井戸工場のサンドイッチ主任として、来る日も来る日もレタスをちぎってパンの上に置く作業を繰り返していたが、俺の働きは会社に認められなかったようだ。
退職金はわずか10万円。銀行口座には25万円しか入っていない。会社都合のため、失業保険はすぐに出るが、これから一体どう暮らしていこうか…… もうすぐ2014年がやってくるというのに、来年の見通しは暗い。
東池袋のオケラ荘は静まりかえっている。午前2時だから、いつもはうるさい天井に住んでいるネズミたちも寝ているようだ。
ふと、窓を見ると白い猫がいた。いや、猫より大きい。その生き物は赤い眼をしており、目が合うとこう言ってきた。
「僕、君にお願いがあって来たんだ。僕と契約して、はてなブロガーになって欲しいんだ」
はてなブロガー! 聞いたことがある。最近話題のブログサービスだが、いろいろと問題も抱えていると聞いたことがある。いったいどんなトラブルだったか……
「僕は、君の願いごとをなんでもひとつ叶えてあげるよ」
え、じゃ、俺もカリスマブロガーにでも成れるのだろうか? 口に出さずそう考えただけで、その生き物はこう答えた
「なんだってかまわない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ。でも、それと引き換えに出来上がるのがはてなブロガー。このアカウントを手にしたものは、インターネットの魔女たちと戦う使命を課されるんだ」
なんだか、面白そうだ。カリスマブロガーになれば、アフィリエイトでウハウハ、ファンの女性たちにもモテモテになるだろう。さっそく白い生き物と契約して、はてなブロガーとなった。
俺はすぐに「東池袋のほっこりブログ」という名前で、はてなブログを開設した。
「ちょっと、ネーミングセンスがダメダメなんじゃないかな?」
と、白い生き物から呆れられた。
ノマドワーキングやスキルアップ、経済について書こうとしたが、俺にはそんな経験も知識もなかった。そこで、東武や西武のデパートの試食コーナーを巡り、その感想を毎日アップした。さらに新文芸座で観た映画のコメントやジュンク堂で立ち読みし、書評などをアップした。
はてなブログはSEO対策が最適に施されGoogleから検索流入も高く、はてなブックマークもつきやすく「はてなブックマーク - 人気エントリー」に入れば、凄い数のPVが流入する。はてなブロガー同士の交流もしやすい。はてな人気ブロガーにidコールを行い、上手く返信エントリーを書いてもらえれば、PVもGoogleページランクもアップする。アフィリエイトも手軽にできPCページだけでなくスマートフォンにも広告が出せる。
白い生き物のお陰か、俺の実力があったのか、それともはてなブログの強さなのか、ブログを開設してからたちまち人気者になり、新星カリスマブロガーと呼ばれるようになった。
はてなブックマークもスターも毎日大量につけられ、ブラウザーを更新するたびに告知の数字が増えていく。お腹が空いたらはてなの事務所に行けば健康的な食事を支給された。アフィリエイトも順調、すでに山■パン時代の月収を超えてしまった。貧乏は怖くない、恐ろしいのは税務署だけとなった。
白い生き物が言っていた「インターネットの魔女」とも戦った。Twitterで誹謗中傷しているアカウントを見つければ攻撃し、デマをまき散らすサイトがあればツッコミエントリーを入れ、mixiを擁護しているサイトがあれば、イチローを召還して晒しあげた。
俺が攻撃すれば、観客達は喜び、PVはますます増えていった。
しかし、ある日、はてなブックマークのコメント欄やはてな匿名ダイアリーで、俺に対する誹謗中傷を行われるようになる。最初はやっかみだと思ったが、毎日毎日書かれる悪意に俺は疲弊してきた。ブログの更新をストップしていたら、白い生き物がやってきた。
「よりにもよって、ブログ更新を放り投げるなんて、どうかしてるよ。僕は訳が分からないよ。どうしてブロガーはそんなに、他人の反応にこだわるんだい?」
ネットからの批判なんて無視すればOKだと思っていたが、これだけ続くと精神的にダメになっていく。
はてなブログは、無名の人間でも上手くやれば有名になれる。しかし、はてなブロガーだからこそ、悪意に満ちたはてなユーザーの標的になってしまう。アメーバブログやFC2でやっていれば……
「ただの一般ユーザーが、アクセスを稼げないブログサービスのままで、インターネットの魔女たちと戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。PVは力だからね」
PVが稼げるはてなブロガーになったけれども、戦う敵が多すぎて、更新する気力がなくなってしまう……
「大丈夫だよ。君たち、はてなブロガーにとって、元の身体なんていうのは、外付けのハードウェアでしかないんだ。君たちの本体としての魂には、ブログパワーをより効率よく運用できる、コンパクトで、安全な姿が与えられているんだ。はてなブロガーとの契約を取り結ぶ、僕の役目はね。君たちの財布からお金を抜き取って、はてなポイントに変える事なのさ」
どうりで、アフィリエイトで頑張って稼いだお金がどんどん減っていくわけだ(注:有料プランは月額980円です。複数年契約するともっと安くなるよ)
「僕は、はてなブロガーになってくれって、きちんとお願いしたはずだよ? 実際の姿がどういうものか、説明を省略したけれど。訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね。事実、多くのはてな村民も最後まで気づかなかった」
最初に思い出せなかったアレだ。はてな村特有の批判と更新ストップ問題……!
「そもそも君たちブロガーは、PV数・はてなブックマーク数・アフィリエイトの稼ぎ以外は最初から興味ないだろう? 僕が願いを叶えて、その3つを満足させているにも関わらず、外野からいくつか批判がくると、更新する気力が消滅してしまう。身勝手な人種さ」
俺は黙って聞いていた。
「さんざん他人を攻撃しておいて、自分が攻撃されると逃げ出す。ただ君は凄い能力を持っている。はてなブロガーとしての潜在力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる。君は悪意のコメントと戦う毎に、強力なはてなブロガーになっていったんじゃないのかい」
てなわけで、最近話題の「批判されて、ブログのやる気が無くなった問題です」。ネットの世界は意外とフェアで「一方的な悪意」には、必ず「それは違う」という反対の意見が外野から出てきます。
日常的に一方的な悪意や炎上が続くのであれば、それは「ブログ主」に原因があるように思うのですが、いかがでしょうか?
なんども言っていますが、白い生き物と契約でもしていないかぎり、ブログなんて片手間でやるものです。自分が納得できないコメントや批判が来たら、XVIDEOSでも見て寝ましょう。それでもイライラが収まらなかったら、戦うか無視するか…… 片手間やってる作業で必要以上のストレスを感じるのは割が合いません。
だからこそ、ネットバトルになったときは「どれほどの信念を持ってるか」が肝になるわけですが。
そんじゃねー