最近、週刊文春で連載して無茶苦茶面白かった『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』(以下 全部やれ)が単行本にまとまっていた。この本は視聴率万年3位だった日本テレビが、どう巻き返したが克明に描かれており、ノンフィクションにも関わらず良質なハードボイルド小説を読んでいるような感覚になる。確かに私が子供のころは「日本テレビは巨人戦でもっている」というイメージがあったがいつのまにかフジテレビを蹴落として、今では立派な視聴率王者だ。
『全部やれ』を読んでいると、努力とタイミングがどれだけ重要か実例で教えてくれる。今ではレジェントとなりつつある土屋敏男プロデューサーが、意外なことに当初は「どれだけダメダメだったか」がよくわかる。
この本で好きな場面が2つあるけれど、1つは若き土屋敏男とテリー伊藤が車の中で話す場面だ。
テリー伊藤との車中問答
その当時、仕事が終わると、酒を飲まない伊藤は土屋を車で送ってくれていた。車中では伊藤がいろいろな話をしてくれる。ふと、土屋は以前から疑問に思っていたことを聞いてみようと思った。伊藤は会議中、作家が出してくる企画案を「これは面白い」「これは面白くない」と瞬時に判断していた。なぜ、そんなことができるのか、と。
「作家なんて、会議の前に近所の喫茶店でせいぜい1時間考える程度だろう。オレは毎日、8時間は考えてる。すると作家が出してくるような企画は、自分が一度は考えたことがあるものなんだ。そしたら面白いか面白くないかなんて、すぐわかるよ」
笑いは才能ではなく、かける時間なのだ、と言うのだ。目から鱗が落ちた。伊藤が8時間なら、自分は12時間、24時間考えなきゃいけない、そう思った。
単に時をかければいいものではない、だけど「真剣にやる」というのは、すなわち「かける時間」なんだということがわかる。
面白いブログを書きたい、PVを稼ぎたい、ネットで有名になりたい、プロブロガーとして成功したい……といろいろな欲望があるけれど、果たして1日に8時間それについて真面目に考えているのか?
最近、「結局才能ではないか」という思考に陥っていた私にとっては、このエピソードは救いだ(まあ、「時間を毎日かける」というのも才能が必要なんだけどね)。
あと、もう一個好きなエピソードは、萩本欽一がいきなり13時間喋るやつ。
その後、土屋は萩本欽一の番組を手がけることになった。
最初の顔合わせの時、萩本はおもむろに話し始めた。土屋の顔は見ずによどみなく語る。夕方6時から始まったその話は、朝方7時まで実に13時間続いた。
「お前、合格」
萩本は土屋に言った。土屋はその13時間もの間、萩本の話を気をそらさずにずっと耳を傾けていたからだ。話しながら萩本はその様子をしっかり見ていたのだ。もちろん、番組の“座長”となる男の話だから、しっかり聞かなければという意識もあった。だが、何より、萩本の語るテレビ論、お笑い論に自然に引き込まれたのだ。80年代前半、「視聴率100%男」と呼ばれていた萩本も85年の休養から復帰以後、その人気に陰りが見えてきていた。とはいえ、その理論と説得力、そして熱意はまったく衰えていなかった。
私もいきなり13時間ちかく喋ってみたいぞ!
『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』はお勧めです。
- 作者: 戸部田誠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/05/11
- メディア: 単行本
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