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紅茶とお菓子について書いているほっこりブログです

ATSUSHIと山月記と3人の老婆

インターネットコンテンツの定番で、マクドナルドで隣にいた女子高生の会話ってのがある。マクドナルドにしろ、ファミレスにしろ、私は他人の会話を聞くのが好きだ。きっとこの日記を熱心に読んでくださる人々もそうでしょう。思い起こせば、子どもの頃やっていたアマチュア無線で、30代カップルが夜な夜な駄弁っていたのを熱心に聞いていた時から、その傾向はあったかもしれません。会話の内容をここに書きたいのですが、電波法第59条「秘密の保護」があるため、それを明かすことはできない。

最近、Aさんに教えてもらったプラチナ万年筆の「プレジール ノバオレンジ 中字」(1000円)を購入。インクはブルーブラック。早速書き味を試すため、コクヨの400字詰め原稿用紙を買って、近くのイタリアントマトに入店。スマートフォンで青空文庫の「山月記」を映し出し、写経ならぬ写小説を始めた。

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。

中島敦の漢文調の文体を書いていると、自分も文豪になった気分になる。しかも写しているだけなので、原稿用紙のマス目も悩むことなく埋まっていく。1000円で買った万年筆もアメンボが水面を移動するように、すいすいとかけていく。高価な麻薬を用いなくても、万年筆と原稿用紙、スマートフォンだけで脳内麻薬がバシバシでて気持ちよくなった時、隣の座っていた老婆達の声が聞こえた。

歳は70代ぐらいの女性が3人座って、熱心に会話をしていた。私の集中力をそいだのは、この一言だった

「ATSUSHIだって、デモテープをたくさん作って応募していたらしいわよ」

アツシは中島敦ではなく、おそらくEXILEのATSUSHIだと思われるので、上記のセリフはアルファベット表記にした。しかし、なんでおばあさん達はATSUSHI氏の下積み時代について語っているのか。なぜデモテープの話をしているのか。疑問に思って耳を傾けていたら、もう一人の老婆が口を開いた。

「そうなのよ。だから、たくさんデモテープ送りなさいって、言ってるけど、なかなか作らないよね」

前提となる情報が抜けているので推測になるが、恐らくおばあさんの孫にあたる人物が「オレはミュージシャンになりたい」と夢を語るも、何もせず。孫の心配と愚痴をここで語っているのだろう。
見知らぬお孫さん、努力しないとミュージシャンとして成功しないよ。

己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。虎と成り果てた今、己は漸くそれに気が付いた。

その後は、女性特有の会話にあるいろいろなトピックに道草をくいながら、ミュージシャンとしてどう成功するかについて喋っていた。

私の写小説に、やっと袁傪(えんさん)が登場する頃、隣のテーブルにも新しい人間が登場した。年齢は20代後半の男性。標準語で喋っているが、東北弁のイントネーションが残り、誠実におばあさん達の相手をしている。おばあさん連中は、孫に接するように優しく話しかけながら、今日のイベントについて語っていた。

なるほど、おばあさん達が話していたのは孫でなく、おそらくこの売れない歌手のことだったのだ。10分ほど4人で話した後、ひとりの老婆が「一緒に彼と出て行くと、問題になるかもしれないから、別々にでていきましょ」と、まるでパパラッチを恐れる芸能人カップルのような発言。4人は無言で頷き、バラバラに出て行った。

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